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京都地方裁判所 昭和54年(ワ)814号 判決 1982年8月17日

原告

池見安生

被告

株式会社南重量部

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金一一五万九七一三円及び内金一〇五万九七一三円に対する昭和五三年七月二五日から、内金一〇万円に対する昭和五七年八月一八日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分しその一を被告らの負担とし、その九を原告の負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し三〇〇〇万円及びうち三三〇万円に対する昭和五三年七月二五日から、うち二六七〇万円に対する昭和五六年五月二二日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五三年七月二四日午後五時三五分頃

(二) 発生場所 京都市南区吉祥院石原野上町五番地先路上(国道一七一号線)

(三) 加害車両 被告会社保有、被告足立運転の軽四輪乗用自動車(京都五〇あ二九七六)

(四) 被害車両 原告所有運転の自動二輪車(京都下さ八六〇〇)

(五) 事故の態様 原告が前記国道の第一走行車線を被害車両を運転して時速約四〇キロメートルで西進していたところ、被告足立が進行方向左側の歩道上に後向きに駐車させていた加害車両を突然後退させて原告の進行方向直前に飛び出してきたため被害車両前部と加害車両の後部とが衝突した。

2  責任

被告足立は、歩道上から車道に後退する際後方の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り後退した過失により後方より進行してきた原告を発見できず危険回避の措置を講じないまま加害車両を被害車両に衝突せしめたのであるから不法行為責任があり、被告会社は加害車両の保有者であり事故当時自己のために運行の用に供していたから自賠法三条によりそれぞれ原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 右交通事故により原告の自動二輪車は前篭、前輪、右ステツプまわり等が破損し、原告は、頭部外傷、頸部損傷、左膝打撲兼挫創、右手関節部左手及び左胸部打撲傷、両肘両膝左足関節部打撲兼擦過傷、左脛骨骨折、右舟状骨骨折、左肋軟骨損傷、左膝外傷性関節炎(靱帯損傷)の傷害を受けた。昭和五六年五月二五日まで入通院して加療し同月二二日症状固定したが、なお左膝関節が安定せず補装具を必要とし跛行、左片脚起立正座不能、右手関節に痛みが残り、右手関節、左下肢機能障害により身体障害者等級第六級の認定を受けている。

(二) 原告は、本件交通事故により次のとおり損害を被つた。

(1) 物損 三〇〇〇円。原告の自動二輪車の破損を修理するに要する費用。

(2) 休業補償 一七〇万七一八九円。

(イ) 原告は京都市下京区新町通綾小路下る三八二石黒工務店(経営者石黒建吉)に勤務し、一日平均六七〇六円の給料を得ていたが本件事故以来休業せざるを得なくなりその間労災補償保険から一日当り五三六五円の給付を受けたのでその差額一日当り一三四一円に昭和五五年九月二二日迄の休業期間七九一日を乗じた一〇六万七三一円。

(ロ) 原告が試験的に石黒工務店に働き始めた昭和五五年九月二三日から症状固定の前日である同五六年五月二一日迄の二四一日間は平均給与額の六〇パーセントの収入を得たので、一日当りの平均給与額六七〇六円の四〇パーセントに二四一日を乗じた六四万六四五八円。

(3) 付添費 四〇万円。原告の入院中昭和五三年七月四日から同年一一月三〇日迄一五〇日間付添を要し原告の妻恵津子が付添つた。

(4) 入院雑費 二〇万円。

(5) 通院費 一一万五〇四〇円。

(6) 松葉杖使用代 二六一〇円。一日当りの使用料金三〇円に使用期間である昭和五四年九月三〇日以降同年一二月二五日迄の八七日間を乗じた額。

(7) 膝装具A・アルミ使用・膝関節C購入代金 三万六一五〇円

(8) 後遺症による逸失利益 四五八七万八七〇九円。症状固定の日である昭和五六年五月二二日現在原告は満四一歳であり、昭和五五年度賃金センサスによると四一歳男子の平均給与は年間四一八万七〇〇円である。原告の後遺症による労働能力喪失率は六七パーセント、就労可能年数二六年、そのホフマン係数一六・三七九、従つて後遺症による逸失利益は四五八七万八七〇九円である。

(9) 入通院による慰謝料 三〇四万円。昭和五三年七月二四日以降同年一一月三〇日迄一三〇日間入院し、同年一二月一日以降同五四年五月一〇日迄一六一日間通院し、続いて昭和五四年五月一一日以降同年九月三〇日迄一四三日間入院し同年一〇月一日以降同五六年五月二五日迄通院したことによる精神的損害。

(10) 後遺症による慰謝料 七五〇万円

(11) 弁護士費用 二〇〇万円

4  よつて、原告は被告らに対しそれぞれ右損害金のうち三〇〇〇万円及びうち三三〇万円に対する損害発生の日以後である昭和五三年七月二五日から、うち二六七〇万円に対する症状固定日である昭和五六年五月二二日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実のうち事故の態様を否認し、その余は認める。同2の事実は否認し、責任は争う。同3の事実は不知、損害額は(二)の(6)(7)を認めその余は争う。

三  被告らの主張

1  被告足立が駐車場から車両を後退させて道路上に停止し前方に向けて発進しようとした際に原告車両がブレーキ故障のため制動が効かず追突してきたものであり同被告には全く過失がない。

2  仮に被告足立に過失があるとしても、事故現場の見通しは極めて良かつたから原告としては前方を注視してさえいれば容易に被告車両を発見し事故を回避しえたのであり原告には前方注視を怠つた重大な過失があつたから損害の発生または額の算定について斟酌すべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一(事故の発生と責任)

昭和五三年七月二四日午後五時三五分頃京都市南区吉祥院石原野上町五番地先路上(国道一七一号線)において原告運転の自動二輪車と被告足立運転の軽四輪車(加害車という。)とが衝突した事実は当事者間に争いがなく、この事実と成立に争いのない甲第二、第三号証、同第七、第八号証、同第一一号証、同第一四号証と原告(第一回)、被告足立繁治各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

被告足立は、勤務を終え勤務先である被告会社から帰宅するため被告会社保有の加害車を運転し、北方向へ後退しながら同会社表歩道(幅員約三・五メートル)を経て東西に通ずる国道一七一号線車道上に出ようとしたのであるが、誘導者もなく東方の安全を十分確認しないまま時速二ないし三キロメートルで後 を続け西行車道(二車線)の外側車線(その幅員約三・五メートル)上を横切る格好でその約三分の二辺りまで出て西進するため車体後部を北東に向けて停止しようとした直前同道路西行外側車線上を時速約四〇キロメートルで西進してきていた原告車の前部に加害車の左後部を衝突させた。当時加害車と原告車との間には遮るものはなく相互に見通しは良好であつた。

以上の事実を認めることができ右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、被告足立はこのような場合誘導者をつけるか誘導者をつけないときはより慎重に後方の安全を確認して後退すべきであるのにこれを怠つて後退を続けたため右事故が発生したと認められるから過失があるものというべく従つて不法行為責任があり、被告会社は加害車の保有者であつて自己のため運行の用に供していたものといえるから自賠法三条によりそれぞれ原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

二(損害)

成立に争いのない甲第九号証、同第二六ないし第三〇号証、同第三二号証の一ないし三、乙第一ないし第四号証の各一、二、三、証人石黒建吉の証言により成立を認める甲第二四、第二五号証、原告本人尋問(第一、二回)の結果により成立を認める甲第一七ないし第二三号証、同第三三ないし第三五号証と証人石黒建吉の証言、原告本人尋問(第一、二回)の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次のとおり認めることができる。

1  原告は、京都市南区吉祥院八反田町三二第二大羽病院で頭部外傷、頸部損傷、左膝打撲兼挫創、両肘両膝左足関節部打撲兼擦過傷、右手関節部左手及び左胸部打撲傷、右脛骨骨折、左肋軟骨骨損傷の診断を受け、昭和五三年七月二四日から同年一一月三〇日まで一三〇日間入院し、同年一二月一日から同五四年五月一〇日まで(治療実日数一二八日)通院し、同市西京区山田平尾町一七京都桂病院に昭和五四年四月二五日から同年五月一〇日まで、また同年一〇月一日から同五六年五月二二日まで(実治療日数五六日)通院し、同五四年五月一一日から同年九月三〇日まで一四三日間入院し、昭和五六年五月二二日症状固定した。症状固定当時左膝関節の運動範囲は正常であるが軽度の前方抽出現象が認められ軽度跛行し患側片脚起立は不能で左下肢の筋萎縮を認め、右手関節に最大背屈掌屈時痛みが残つた。

2  本件事故と相当因果関係のある損害は次のとおりである。

(一)  治療費 五〇〇万三四一六円。うち第二大羽病院分二八三万五二一八円、京都桂病院分二一六万八一九八円。

(二)  入院付添費 二二万五〇〇〇円。前記傷害の部位内容、治療状況よりみて原告の妻が付添つた第二大羽病院における入院期間一三〇日のうちの半分である六五日間及び京都桂病院における入院期間一四三日のうち一〇日間について付添を要したものと認め、一日について三〇〇〇円が相当であるからその合計額。

(三)  入院雑費 一九万一一〇〇円。入院期間二七三日について一日当り七〇〇円の雑費を要したものと認めその合計額。

(四)  通院費 五万九〇四〇円。第二大羽病院の通院日数一二八日について一日に少くとも四〇〇円、京都桂病院の通院日数五六日について一日一四〇円の往復運賃を要したからその合計額。

(五)  松葉杖使用料 二六一〇円(当事者間に争いがない。)。

(六)  膝装具代金 三万六一五〇円(右に同じ。)。

(七)  逸失利益 五五七万七六三〇円。原告は京都市下京区新町通り綾小路下る三八二番地石黒工務店(経営者石黒建吉)に勤務し昭和五二年に年間一六一万二六八〇円の給料を得ていた。休業による逸失利益率は本件事故日である昭和五三年七月二四日から症状固定日である昭和五六年五月二二日まで一〇三三日間のうち二年間について一〇〇パーセント、その後三〇三日間について八〇パーセント、症状固定日の翌日から一〇年間(そのホフマン係数七・九四五)について一〇パーセントとするのが相当でありその総額は五五七万七六三〇円となる。

161万2680×2=322万5360…………………<1>

161万2680×303/365×0.8=107万0966………<2>

161万2680×0.1×7,945=128万1274………<3>

<1>+<2>+<3>=557万7630

(八)  慰藉料 原告の傷害の部位・程度、治療経過、後遺症の内容・程度、その他本件に顕われた一切の事情を斟酌すれば原告が本件事故により慰藉料として請求しうべき額は三五〇万円をもつて相当と認める。

(九)  過失相殺 加害車は徐行しながら歩道を横切つて西行外側車線上の三分の二辺りにまで後退してきていたのであり見通しは良好であつたから原告において十分前方を注視していた場合これに気付きえた筈であり加害車の動静に対処して減速停止または迂回するなど危険の発生を回避できたのにかかわらずその措置にでなかつたから原告にも過失があつたものというべきであり、前記被告足立の過失の程度と比較勘案すると原告の過失割合は二割とするのが相当である。

(十)  損益相殺 一〇六一万六二四三円。本件事故に対し労災保険から八六六万六二四三円、自賠責保険より一九五万円がそれぞれ支払われているのでその合計額。

(十一)  以上(一)ないし(八)の損害合計額は一四五九万四九四六円となるところ、前記過失割合によりその二割を控除すると一一六七万五九五六円となる。そして、右損害に対し合計一〇六一万六二四三円の支払がなされていることは前記(十)のとおりであるからこれを控除するとその残額は一〇五万九七一三円となる。

(十二)  原告は、外に物損として三〇〇〇円の支払を求めるけれども右損害額を認めるに足りる証拠がない。

(十三)  原告は本件訴訟の遂行を弁護士に委任しており、本件訴訟の内容、経過、認容額その他諸般の事情を勘案すれば原告が負担する弁護士費用のうち損害賠償として請求しうべき額は一〇万円とするのが相当である。そして、右損害金に対する遅延損害金の起算日は本判決言渡の日の翌日である昭和五七年八月一八日とするのが相当である。

三 よつて、原告の本訴請求のうち被告らに対し連帯して一一五万九七一三円及びうち一〇五万九七一三円に対する本件損害発生後である昭和五三年七月二五日から、うち一〇万円に対する昭和五七年八月一八日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文)

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